こちらでは港南電車軌道に与えられた大阪~堺間の特許状の命令書について、掲載致します。
大阪~堺間の特許は大阪市内の芦原橋から堺市内の戎島までのものとなります。なお、1923年(大正12年)12月26日付、監第3556号で特許命令書変更の件が認可されており、このとき第一條が変更されました。その変更後のものも掲載しています。
条文の上をクリックすると、現代語訳が出るよ。
特許命令書・条文1 2
第一條 今般港南電車軌道株式會社發起人高倉爲三外二十九名ニ對シ軌道ヲ敷設スルコトヲ特許シ一般運輸ノ業ヲ營ムコトヲ許可シタル軌道ノ線路ハ左ノ如シ
第1条 この度、港南電車軌道株式会社・発起人である高倉為三他29名に対し、軌道を敷設することを特許し、一般運輸業を営むことを許可した。許可した軌道の線路は次の通り。
一、大阪市南區難波蘆原町千二百三十六番地ノ三地先ヨリ同市同區木津北島町一丁目五番地先ニ至ル新設道路
1. 大阪市南区難波芦原町1236番地-3地先より同市同区木津北島町1丁目5番地先までの新設道路
二、前號終點ヨリ大阪府西成郡津守村ヲ經テ同府東成區敷津村大字北加賀屋三百五十二番地先ニ至ル新設道路
2. 前号終点より大阪府西成郡津守村を経て、同府東成区敷津村大字北加賀屋352番地先までの新設道路
【1923年(大正12年)12月26日変更】
二、前號終點ヨリ大阪府西成郡津守村ニ於テ專用跨線橋ヲ渡リ東成郡墨江村、敷津村、泉北郡三寶村ヲ經テ堺市吾妻橋通二丁一番地ノ一地先ニ至ル新設道路
2. 前号終点より大阪府西成郡津守村で専用跨線橋を渡り、東成郡墨江村、敷津村、泉北郡三宝村を経て、堺市吾妻橋通2丁1番地の1地先までの新設道路
三、前號終點ヨリ堺市惠比須島築洲新田一番地ノ一地先ニ至ル新設道路
3. 前号終点より堺市恵比須島築洲新田1番地-1地先までの新設道路
【1923年(大正12年)12月26日変更】
三、削除
3. 削除
第二條 營業年限ハ大正六十一年七月六日迄トス
第2条 営業期限は大正61年(1972年)7月6日までとする。※1972年は昭和47年である。
第三條 原動力ハ電氣トシ其ノ方式ハ單線架空式又ハ複線架空式トス
第3条 原動力は電気とし、その方式は架空単線式または架空複線式とする。
第四條 電氣ニ關スル事項ニ付テハ明治四十四年法律第五十五號電氣事業法ノ規定ニ依ルヘシ但シ同法第三條ノ出願ハ大正十二年一月六日迄ニ之ヲ爲スヘシ
第4条 電気に関する事項について、明治44年法律第55号電気事業法の規定によらなければならない。但し、同法第3条の出願は1923年(大正12年)1月6日までに行わなければならない。
第五條 特許ヲ受ケタル者ハ大正十二年七月六日迄ニ左ノ各號ニ準據シ線路實測圖(平面圖ハ縮尺二千分ノ一縱斷面圖ハ縱二百分ノ一、橫二千分ノ一、橫斷面圖ハ二百分ノ一トス)工事方法書圖面及工費豫算書ヲ調製シ大阪府知事ノ認可ヲ受クヘシ之ヲ變更スルトキ亦同シ
第5条 特許を受けた者は1923年(大正12年)7月6日までに次の各号に準拠し、線路実測図(平面図は縮尺1/2000、縦断面図は縦1/200、横1/2000、横断面図は1/200とする。)工事方法図面及び工費予算書を作成し、大阪府知事の認可を受けなければならない。変更する場合も同様に行う。
一、軌間ハ內法四呎八吋半トス
1. 軌間は内寸4フィート8インチ半(1435mm)とする。
二、軌條ハ鋼鐵製工字型若ハ溝形ノモノヲ用ヰソノ重量ハ一碼ニ付九十封度以上トス
2. 軌条は鋼鉄製の工字型もしくは溝形のものを用い、その重量は1ヤードについて90ポンド以上(44.6kg/m以上)とする。
三、軌條間ノ全部及其ノ左右各二尺通ハ木石砂利其ノ他適當ノ材料ヲ敷キ鐵軌面ト道路面ト高低ナカラシムヘシ
3. 軌条間の全部及びその左右各2尺(60.6cm)幅は木石砂利その他の適当な材料を敷き、鉄軌面と道路面と高低差がないようにしなければならない。
四、軌道ヲ敷設スル道路ハ十一間以上トス
4. 軌道を敷設する道路は11間(20m)以上とする。
五、軌道ハ兩側人家連擔ノ場所又ハ連擔スヘキ場所ニ於テハ道路ノ中央ニ之ヲ敷設シ車體外ノ各側ニ二間半以上ノ幅員ヲ存スルコトヲ要ス
井戶、並木、電柱、街燈、郵便函其ノ他道路上ノ建築物ヨリ其ノ側ノ路端迄ノ距離溝渠敷地及人道車馬道ヲ區別セル道路ニ在リテハ其ノ人道ハ前項ノ幅員ニ算入セス
5. 軌道は両側が区画を跨いで人家が連続するような場所又は連続するだろう場所では道路中央に軌道を敷設し、車体外の各側に2.5間(4.5m)以上の幅員を設けることを要する。
井戸、並木、電柱、街燈、郵便ポスト、その他の道路上の建築物より、当該建築物側の路端までの距離、溝渠の敷地、及び人道と車馬道を区別する道路の人道は前項の幅員に算入しない。
六、道路ノ一方ヨリ他ノ一方ニ軌道線ヲ移ス箇所ハ木又ハ石ヲ用ヰテ踏切ヲ設クヘシ
6. 道路の一方より他方に軌道線を移す箇所は木または石を用いて、踏切を設けなければならない。
七、軌道カ道路ヲ橫斷スル箇所亦前號ニ同ジ
7. 軌道が道路を横断する箇所も前号に同じである。
八、橋梁ノ構造幅員及耐力ハ大阪府知事ノ指定スル所ニ依ルヘシ
8. 橋梁の構造、幅員及び耐力は大阪府知事の指定するところによらなければならない。
九、軌道敷設ノタメニ生スル道路面及軌道內ニ於ケル雨水ノ潴留ニ付テハ完全ナル排除ノ方法ヲ設クヘシ
9. 軌道敷設のために生じる道路面及び軌道内の雨水の滞留について、完全な排除方法を設けなければならない。
一〇、勾配ハ二十五分ノ一ヲ超ユヘカラス
10. 勾配は1/25(40‰)を超えてはいけない。
一一、屈曲ノ半徑ハ三十六尺ヲ以テ最小限トス
11. 屈曲の半径は36尺(10.9m)を最小限とする。
一二、車輌ニハ相當ノ避難器、制動器及信號器ヲ裝置スヘシ
12. 車輌には相当の避難器、制動器及び信号器を設置しなければならない。
一三、地下ニ埋設シタル公衆信用ノ電信又ハ電話線路、水管瓦斯管其ノ他公共用ノ地下工作物ト交叉若ハ接近シテ軌道ヲ敷設スルトキハ其ノ線路又ハ工作物ヲ毀損セサル爲適當ノ豫防裝置ヲ爲スヘシ
13. 地下に埋設した公衆用の電信又は電話線路、水道管、ガス管その他の公用の地下工作物と交差もしくは接近して軌道を敷設する場合、その線路または工作物を毀損しないよう適切な予防装置を設置しなければならない。
一四、各種ノ人孔制水辨蓋等ニ接近シテ軌道ヲ敷設スルトキハ操業上障害ヲ與ヘサル爲適當ノ距離ヲ保タシムヘシ
14. 各種マンホール、制水弁及び蓋に接近して軌道を敷設する場合、操業上障害を与えないように適当の距離を保たせなければならない。
第六條 將來大阪市都市計畫事業及國有鐵道改良工事ニ付必要アリト認メタルトキハ鐵道大臣及內務大臣ハ線路又ハ工事方法ノ變更ヲ命スルコトアルヘシ
第6条 将来、大阪市都市計画事業及び国有鉄道改良工事について、必要と認めた場合、鉄道大臣及び内務大臣は線路又は工事方法の變更を命じることがある。
第七條 特許ヲ受ケタル者ハ第五條ノ認可ヲ得タル日ヨリ六箇月內ニ工事ニ着手シ着手ノ日ヨリ二箇年內ニ竣功スヘシ但シ天災其ノ他正當ノ事由ニ依リテ本條ノ期間內ニ工事ニ着手シ又ハ竣功スルコト能ハサルトキハ相當ノ延期ヲ與フルコトアルヘシ
第7条 特許を受けた者は第5条の認可を得た日より6ヶ月以内に工事に着手し、着手日より2年以内に竣功しなければならない。但し、天災その他の正当な理由により本条の期間内に工事に着手、又は竣功することができない場合、相当の延期を与えることがある。
第八條 特許ヲ受ケタル者ニ於テ擴築シタル道路及改築シタル橋梁ハ竣功ト同時ニ無償ニテ國又ハ公共團体ノ有ニ歸ス
第8条 特許を受けた者により拡築した道路及び改築した橋梁は竣功と同時に無償で国または公共団体の所有となる。
第九條 軌道敷設ノ爲メ道路ノ地表又ハ地下ニ於ケル建設物ノ移轉其ノ他ノ工事ヲ要スルトキハ特許ヲ受ケタル者ニ於テ之ヲ施行シ又ハ其ノ費用ヲ負擔スヘシ
第9条 軌道敷設のため、道路の地表または地下の建設物の移転、その他の工事を要する場合、特許を受けた者により施行または其の費用を負担しなければならない。
第十條 車輌及電柱ノ構造並電燈ノ裝置ハ大阪府知事ノ認可ヲ受クヘシ之ヲ變更スルトキ亦同シ
第10条 車輌及び電柱の構造並びに電燈の装置は大阪府知事の認可を受けなければならない。変更する場合も同様に行わなければならない。
第十一條 工事ノ全部又ハ一部竣功シ運輸ヲ開始セムトスルトキハ特許ヲ受ケタル者ハ大阪府知事ノ許可ヲ受クヘシ
工事カ工事方法書ニ違反スルモノト認ムルトキハ大阪府知事ハ其改築又ハ停止ヲ命スヘシ
第11条 工事が全部または一部竣功し、運輸を開始しようとするときは特許を受けた者は大阪府知事の許可を受けなければならない。
ニ、工事か工事方法書に違反が認められる場合、大阪府知事はその改築または停止を命じなければならない。
第十二條 乘客ノ定員荷物ノ制限運送賃及發車並營業時間ハ大阪府知事ノ認可ヲ受クヘシ之ヲ變更スルトキ亦同シ
第12条 乗客の定員、荷物の制限、運送賃及び発車並びに営業時間は大阪府知事の認可を受けなければならない。また、これらを変更する場合も同様に大阪府知事の認可を受けなければならない。
第十三條 車掌及運轉手ノ資格及採用ノ方法ハ特許ヲ受ケタル者ニ於テ之ヲ定メ大阪府知事ノ認可ヲ受クヘシ之ヲ變更スルトキ亦同シ
第13条 車掌及び運転手の資格及び採用方法について、特許を受けた者が定め、大阪府知事の認可を受けなければならない。また、これらを変更する場合も同様に大阪府知事の認可を受けなければならない。
第十四條 車輛ハ一輛每ニ大阪府知事ノ檢査ヲ受クルニ非サレハ之ヲ使用スルコトヲ得ス
第14条 車輌は一輌ごとに大阪府知事の検査を受けていないのであれば、使用することはできない。
第十五條 車輛進行ノ速度ハ一時間八哩以內トス
第15条 車輌進行の速度は毎時8マイル(12.9km/h)以内とする。
第十六條 車輛ハ二車又ハ二車以上ヲ聯結シテ進行セシムルコトヲ得ス、進行中ハ各車ノ間ニ相當ノ距離ヲ保タシムヘシ
日出前日沒後ハ五町以上ノ距離ニ於テ容易ニ認メ得ヘキ燈火ヲ車輛ノ前後ニ點スヘシ
車輌は2輌または2輌以上を連結して、進行させることはできない。進行中は各車の間に相当の距離を保たせなければならない。
ニ、日出前、日没後は5町(545.5m)以上の距離を容易に認めることができる燈火を車輌の前後に灯さなければならない。
第十七條 乘客ノ昇降ノ爲ニスルノ外故ナク道路上ニ停車セシムルコトヲ得ス但シ乘客昇降ノ場合ト雖道路ノ交叉部屈曲部及橋梁上ニ於テ停車セシムルコトヲ得ス
第17条 乗客の乗降以外に、理由なく道路上に停止させることはできない。但し、乗客乗降であっても、道路の交差部、屈曲部及び橋梁上で停止させることはできない。
第十八條 大阪府知事ノ指定シタル場所ニハ特ニ信號人ヲ置キ其ノ場所ニ於テ進行ノ速度ハ一時間五哩ヲ超過セシムルコトヲ得ス
第18条 大阪府知事が指定した場所には、特に信号人を置き、その場所では進行速度は毎時5マイル(8.0km/h)を超えさせることはできない。
第十九條 出火ノ際消防上ノ必要アルトキハ車輛ノ進行ヲ停止スヘシ
第19条 出火の際に消防上、必要がある場合、車輌の進行を停止しなければならない。
第二十條 特許ヲ受ケタル者ハ路傍ニ建設スル電柱ニハ日出前日沒後營業時間內其ノ他ノ電柱ニハ終夜點燈スヘシ但シ大阪府知事ノ許可ヲ得テ點燈ノ數ヲ減スルコトヲ得
第20条 特許を受けた者は路端に建設する電柱については日出前、日没後の営業時間内に、また、その他の電柱については終夜点燈しなければならない。但し、大阪府知事の許可を得て、点燈する数を減らすことができる。
第二十一條 左ニ揭ケタル箇所ハ大阪府知事ノ命スル所ニ從ヒ特許ヲ受ケタル者ニ於テ其ノ改築修繕掃除、撒水及除雪ヲ爲シ又ハ其ノ費用ヲ負擔スヘシ
第21条 次に掲げた箇所は大阪府知事が命じるところに従い、特許を受けた者でその改修、修繕、掃除、撒水及び除雪を行い、また、その費用を負担しなければならない。
一、道路及橫切下水ハ軌道間ノ全部及其ノ各二尺通
1. 道路及び横切る下水は軌道間の全て及びその各2尺(0.6m)幅
二、橋梁ノ改築又ハ修繕ハ前號ニ定メタル幅員ト橋梁ノ幅員トノ比例ヲ以テ標準トシ其ノ橋梁ノ改築又ハ修繕費ノ全部ニ對シ特許ヲ受ケタル者ニ於テ負擔スヘシ費用ノ步合ヲ定ム橋梁ノ掃除、撒水及除雪ハ前號ニ依ルモノトス
特許ヲ受ケタル者ノ軌道ト他ノ軌道ト交叉スル場合ニ於テハ其ノ交叉面ニ係ル前項ノ義務ハ關係者ノ分擔トス
2. 橋梁の改築または修繕は前号に定めた幅員と、橋梁の幅員との比率を標準とし、その橋梁の改築または修繕費の全部に対し、特許を受けた者で負担する費用の割合を定める。橋梁の掃除、撒水及び除雪は前号によるものとする。
特許を受けた者の軌道と他の軌道が交差する場合、その交差面にかかる前項の義務は関係者の分担とする。
第二十二條 車輛ハ常ニ淸潔ニ保持シ其ノ修繕ヲ怠ルヘカラス
第22条 車輌は常に清潔に保ち、その修繕を怠ってはいけない。
第二十三條 大阪府知事ハ何時ニテモ軌道車輛其他ノ工作物ヲ監査シ危險ナリト認ムルトキハ改築修補ヲ命シ其命ヲ執行シ終ルマテ其ノ使用又ハ營業ヲ停止スルコトアルヘシ
前項ノ場合ニ於テ危險切迫ナリト認ムルトキハ大阪府知事ハ自ラ改築修補ヲ爲スコトアルヘシ
第23条 大阪府知事は何時でも軌道車輌及びその他の工作物を監査し、危険と認める場合、改築修補を命じ、その命令を執行し終わるまで、その使用または営業を停止させなければならない。
二、前項の場合で、危険が切迫していると認める場合、大阪府知事は自ら改築、修補を行うことがある。
第二十四條 大阪府知事ハ何時ニテモ營業ニ關スル實況ヲ監査シ此ノ命令書ノ條項又ハ此ノ命令書ニ基キテ爲シタル處分ニ違反セル事實アルトキハ之ヲ督責シ特許ヲ受ケタル者ニ於テ之ヲ更正スルマテ營業ヲ停止スルコトアルヘシ
第24条 大阪府知事は何時でも営業に関する実際の状況を監査し、この命令書の条項またはこの命令書に基づいて行った処分に違反した事実がある場合、これを厳しく責め、特許を受けた者がこれを更正するまで、営業を停止することがある。
第二十五條 特許ヲ受ケタル者ハ鉄道大臣及内務大臣ノ許可ヲ得ルニ非サレハ全部又ハ一部ノ営業ヲ廃止スルコトヲ得ス
第25条 特許を受けた者は鉄道大臣及び内務大臣の許可を得られていなければ、全部または一部の営業を廃止することはできない。
第二十六條 特許ヲ受ケタル者ハ大阪府知事ノ許可ヲ得ルニ非サレハ營業ヲ休止スルコトヲ得ス
第26条 特許を受けた者は大阪府知事の許可を得られていなければ、営業を休止することはできない。
第二十七條 鐵道大臣及內務大臣ハ公益上必要ト認ムルトキハ何時ニテモ原動力ノ變更其ノ方式設備線路若ハ敷設順序ノ變更又ハ交通上必要ナル線路ノ新設若ハ延長又ハ道路ノ擴築又ハ複線ノ敷設若クハ撤去又ハ一部ノ線路ノ廢止ヲ命スルコトアルヘシ
第27条 鉄道大臣及び内務大臣は公益上、必要と認める場合、何時でも原動力の変更、その方式、設備、線路もしくは敷設順序の変更、または交通上で必要な線路の新設もしくは延長、または線路の拡築、または複線の敷設もしくは撤去、または一部の線路の廃止を命じることがある。
第二十八條 大阪府知事ハ乘客ノ定員荷物ノ制限運送賃及發車並營業時間ノ變更ヲ命シ又學生勞働者其ノ他特種ノ乘客ニ對シ特別ノ賃金ヲ定メシメ若ハ是等ノ乘客ノ爲特別ノ發車ヲ命スルコトアルヘシ
第28条 大阪府知事は乗客の定員、荷物の制限、運送賃及び発車並びに営業時間の変更を命じ、また、学生、労働者、その他の特別な乗客に対し、特別な賃金を定めさせ、もしくはこれらの乗客のため、特別の発車を命じることがある。
第二十九條 道路、橋梁、水道其ノ他公共事業ノ爲必要アルトキハ大阪府知事ハ軌道其ノ他ノ工作物ノ改築若ハ一時撤去ヲ命シ又ハ一時車輛ノ運轉ヲ停止スルコトアルヘシ
第29条 道路、橋梁、水道、その他の公共事業のため、必要がある場合、大阪府知事は軌道、その他の工作物の改築もしくは一時撤去を命じること、又は一時車輌の運転を停止することがある。
第三十條 軌道ハ交叉若ハ之ニ接續シ又ハ之ニ接近シテ道路、橋梁、運河、鐵道又ハ他ノ軌道ヲ設クルコトアルモ特許ヲ受ケタル者ハ之ヲ拒ムコトヲ得ス
第30条 軌道は交差もしくは軌道に接続、または軌道に接近して道路、橋梁、運河、鉄道、または他の軌道を設けることがあっても、特許を受けた者はこれを拒むことができない。
第三十一條 道路ニ敷設セル工作物其ノ他營業上必要ナル物件ハ特許ヲ受ケタル者ニ於テ大阪府知事ノ許可ヲ得ルニ非サレハ之ヲ讓渡シ又ハ義務履行ノ擔保ト爲スコトヲ得ス
第31条 道路に敷設される工作物、その他営業上必要な物件について、特許を受けた者で大阪府知事の許可を得ていないならば、これを譲渡、または義務履行の担保を行うことができない。
第三十二條 鐵道大臣及內務大臣又ハ大阪府知事ハ公益上必要ト認ムル事項ヲ特許ヲ受ケタル者ニ命スルコトガアルヘシ
鐵道大臣及內務大臣ハ公益上必要ト認ムルトキハ此ノ命令書ノ條項ヲ變更スルコトアルヘシ
第32条 鉄道大臣及び内務大臣または大阪府知事は公益上必要と認める事項を特許を受けた者に命じることがある。
二、鉄道大臣及び内務大臣は公益上必要と認める場合、この命令書の条項を変更することがある。
第三十三條 將來定メラル丶所ノ法令ノ結果トシテ此ノ命令書ノ條項ニ變更ヲ來スコトアルモ特許ヲ受ケタル者ハ之ヲ拒ムコトヲ得ス
第33条 将来、定められる法令の結果、この命令書の条項に変更が生じることがあっても、特許を受けた者はこれを拒むことはできない。
第三十四條 特許ヲ受ケタル者ハ半年每ニ營業ノ報吿書ヲ調製シ三十日內ニ大阪府知事ニ差出スヘシ
大阪府知事ハ何時ニテモ營業ニ關スル帳簿書類等ヲ檢閱スルコトアルヘシ
第34条 特許を受けた者は半年ごとに営業の報告書を作成し、30日以内に大阪府知事に差し出さなければならない。
二、大阪府知事は何時でも営業に関する帳簿書類等を検閲することがある。
第三十五條 國又ハ公共團体ニ於テ公益ノ爲軌道其ノ他ノ營業上必要ナル物件ノ全部若ハ一部ノ專用又ハ買收ヲ爲サムトスルトキハ特許ヲ受ケタルモノハ之ヲ拒ムコトヲ得ス但シ之ニ對シ補償ヲ求ムルコトヲ得
前項ノ物件ノ範圍ニ付爭アルトキハ鐵道大臣及內務大臣之ヲ定ム
第35条 国または公共団体で公益のため、軌道その他の営業上必要な物件の全部もしくは一部の、専用または買収を行おうとする場合、特許を受けた者は拒むことができない。ただし、これに対し、補償を求めることができる。
二、前項の物件の範囲について、争いがある場合、鉄道大臣及び内務大臣はこれを定める。
第三十六條 前條全部專用ノ場合ニ於テ月ヲ以テ專用期間ヲ算スルトキハ前年ニ於ケル平均收入月額又ハ前年ノ相當月ノ收入額ヲ標準トシ補償金額ヲ定メ日ヲ以テ專用期間ヲ算スルトキハ前月ニ於ケル平均收入日額又ハ前年若ハ前月ノ相當日ノ收入額ヲ標準トシ補償金額ヲ定ム但シ其ノ選擇ハ特許ヲ受ケタル者ニ於テ之ヲ爲スコトヲ得
前條一部專用ノ場合ニ於テハ特許ヲ受ケタル者ノ選擇スル所ニ從ヒ全部ノ延長ニ對スル專用部分ノ延長ノ比例ヲ以テ全部專用ノ場合ニ於ケル補償金額ニ乘シ又ハ前項ト同一ノ方法ニ依リ其ノ專用部分ニ對スル補償金額ヲ定ム
前條全部買收ノ場合ニ於テハ年率七分ヲ以テ前五箇年間ノ純益平均年額ヲ除シ補償金額ヲ定ム但シ其ノ地方ニ於ケル金利年率ニ著シキ變更ヲ來シタルトキハ鐵道大臣及內務大臣ハ本項ノ年率ヲ變更スルコトアルヘシ
役員賞與ノ性質ヲ有スル支出ハ前項純益金ノ內ニ算ス
前條一部買收ノ場合ニ於テハ前三項ノ規定ヲ準用シテ補償金額ヲ定ム
開業ノ後本條ニ規定シタル時日ヲ經過セサルトキハ既往營業時日ヲ標準トシテ平均額ヲ算出ス
第36条 前条の全部専用の場合では、月により専用期間を計算する場合、前年の平均収入月額または前年の相当月の収入額を標準とし、補償金額を定める。日により専用期間を計算する場合、前月の平均収入日額または前年もしくは前月の相当日の収入額を標準とし、補償金額を定める。ただし、その選択は特許を受けた者が行うことができる。
二、前条一部専用の場合では、特許を受けた者の選択に従い、全部の延長距離に対する専用部分の延長距離の比例により、全部専用の場合の補償金額に乗じる、又は前項の同一方法により、その専用部分に対する補償金額を定める。
三、前条全部買収の場合では、年率7%で前5年間の純益平均年額を除し、補償金額を定める。ただし、その地方での金利年率に著しい変更が生じる場合、鉄道大臣及び内務大臣は本項の年率を変更することがある。
四、役員賞与の性質を持っている支出は前項純益金の中に入れ、計算する。
五、前条一部買収の場合では、前3項の規定を準用し、補償金額を定める。
六、開業後、本条に規定した日数を経過される場合、過去の営業日数を標準として平均額を計算する。
第三十七條 他ノ軌道營業者ニ於テ鐵道大臣及內務大臣ノ許可ヲ得テ特許ヲ受ケタル者ノ軌道其ノ他營業上必要ナル物件ノ一部ヲ共同使用セムトスルトキハ之ヲ拒ムコトヲ得ス但シ其共同使用ノ條件ハ協議ノ上之ヲ定メ協議調ハサルトキハ鐵道大臣及內務大臣ハ之ヲ定ム
第37条 他の軌道営業車が鉄道大臣及び内務大臣の許可を得て、特許を受けた者の軌道、その他の営業上必要な物件の一部を共同しようとする場合、拒むことができない。ただし、その共同使用の条件は協議の上で定め、協議が不調の場合、鉄道大臣及び内務大臣がこれを定める。
第三十八條 左ノ場合ニ於テハ特許ハ其ノ效力ヲ失フ
第38条 次の場合について、特許はその効力を失う。
一、第四條但書ノ期間內ニ出願ヲナサザルトキ又ハ其ノ許可ヲ得サルトキ若ハ其ノ許可カ效力ヲ失ヒタルトキ
1. 第4条の但書の期間内に出願を行わない場合、またはその許可を得られない場合もしくはその許可が効力を失った場合
二、第五條ノ期間內ニ認可ヲ申請セサルトキ又ハ其ノ認可ヲ得サルトキ
2. 第5条の期間内に認可を申請しない場合、またはその認可を得ない場合
三、第七條ノ期間內ニ工事ニ着手セサルトキ
3. 第7条の期間内に工事に着手しない場合
四、全部ノ營業ヲ廢シタルトキ
4. 全部の営業を廃止した場合
五、會社解散シタルトキ
5. 会社を解散した場合
六、營業滿期ノトキ
6. 営業満期の場合
第五條ノ認可申請以前ニ於テ會社成立セサルトキハ特許ハ其ノ效力ヲ失フ
創立總會ニ於テ此命令書ノ條項ヲ遵守シテ營業スルコトヲ議決スルニ非サレバ特許ハ其ノ效力ヲ失フ
第5条の認可申請以前で会社成立しない場合は特許はその効力を失う。
創立総会でこの命令書の条項を遵守して営業することを議決しなければ、特許はその効力を失う。
第三十九條 前條ニ揭ケタル場合ノ外特許ヲ受ケタル者ニ於テ此命令書ノ條項又ハ此ノ命令書ニ基キテ爲シタル處分ニ違反シタルトキハ鐵道大臣及內務大臣ハ特許ノ全部又ハ一部ヲ解クコトアルヘシ
特許ヲ受ケタル者カ不可抗力ニ因ラスシテ滿壹箇月間工事ヲ休止シ更ニ起工セサルトキ亦前項ニ同ジ
前条に掲げた場合の他、特許を受けた者でこの命令書の条項、またはこの命令書に基づいて行った処分に違反した場合、鉄道大臣及び内務大臣は特許の全部または一部を解くことがある。
二、特許を受けた者が不可抗力によらず、滿1ヶ月間工事を休止し、更に、起工しない場合も前項と同じである。
第四十條 特許ノ消滅シタル場合ニ於テ大阪府知事ハ期限ヲ定メテ道路ヲ原形ニ復セシムルコトアルヘシ
第40条 特許が消滅した場合には大阪府知事は期限を定めて、道路を原形に復旧させることがある。
第四十一條 特許ノ消滅シタル場合ニ於テハ國又ハ公共團体カ軌道其ノ他營業上必要ナル物件ノ全部又ハ一部ヲ買收セムトスルトキハ特許ヲ受ケタル者ハ最近ノ財產目錄ニ記載シタル物件ノ價格ヲ以テ之ヲ讓渡スヘシ
買收者ニ於テ前項ノ價格ニ關シ異議アルトキハ其申請ニ依リ鐵道大臣及內務大臣ハ大阪府知事買收者及特許ヲ受ケタル者ヲシテ各三名ノ評價委員ヲ選定セシメ其意見ヲ徵シテ其ノ價格ヲ定ム
本條ノ場合ニ於テハ第三十五條第二項ノ規定ヲ準用ス
第41条 特許が消滅した場合において、国または公共団体が軌道、その他の営業上に必要な物件の全部または一部を買収しようとする場合、特許を受けた者は最近の財産目録に記載した物件の価格によりこれを譲渡しなければならない。
二、買収者が前項の価格に関して異議がある場合、その申請により鉄道大臣及び内務大臣は大阪府知事、買収者及び特許を受けた者に各3名の評価委員を選定させ、その意見を集約して、その価格を定める。
三、本条について、第35条第2項の規定を準用する。
第四十二條 特許ヲ受ケタル者ハ鐵道大臣及ビ內務大臣ノ許可ヲ得ルニ非サレハ特許ニ因リテ生スル權利義務ヲ他人ニ移スコトヲ得ス
第42条 特許を受けた者は鉄道大臣及び内務大臣の許可を得ていなければ、特許により生じる権利、義務を他人に移すことができない。
第四十三條 特許ヲ受ケタル者ニ於テ此ノ命令書ニ基キテ爲シタル處分ニヨリ履行スヘキ義務ヲ履行セサルトキハ大阪府知事ハ自ラ代テ之ヲ執行シ又ハ他人ヲシテ之ヲ執行セシムルコトアルヘシ
第43条 特許を受けた者がこの命令書に基づいて行った処分により、履行しなければならない義務を履行しない場合、大阪府知事は自らが代わって執行し、または他人に執行させることがある。
第四十四條 特許ヲ受ケテル者カ許可ヲ得スシテ營業ヲ休止シ又ハ全部若ハ一部營業ヲ廢止シタルトキハ鐵道大臣及ビ內務大臣ハ市町村ヲシテ營業年限內特許ヲ受ケタル者ノ計算ヲ以テ營業ヲ爲サシメ又ハ他人ヲシテ無償ニテ特許ヲ受ケタル者ノ軌道其ノ他營業上必要ナル物件ヲ使用シ營業ヲ爲サシムルコトアルヘシ
本條ノ場合ニ於テハ第三十五條第二項ノ規定ヲ準用ス
第44条 特許を受けた者が許可を得ずに、営業を休止または全部もしくは一部営業を廃止した場合、鉄道大臣及び内務大臣は市町村に営業年限内特許を受けた者の計算により、営業をさせ、または他人に無償にて特許を受けた者の軌道、その他営業上必要な物件を使用し、営業を行わせることがある。
二、本条について、第35条第2項の規定を準用する。
第四十五條 此命令書及此命令書ニ基キテ爲シタル處分ニ依リ特許ヲ受ケタル者ニ於テ履行スヘキ義務ノ爲ニ生スル費用並第二十三條第二項及第四十三條ノ費用ハ總テ特許ヲ受ケタル者ノ負擔トス
此ノ命令書ニ基キテ爲シタル處分ニ因リ特許ヲ受ケタル者ニ於テ損害ヲ受クルコトアルモ其ノ賠償ヲ請求スルコトヲ得ス
第45条 この命令書及びこの命令書に基づいて行った処分で特許を受けた者が履行しなければならない義務のために生じる費用ならびに第23条第2項及び第43条の費用はすべて特許を受けた者が負担する。
二、この命令書に基づいて行った処分が原因で、特許を受けた者が損害を受けることがあっても、その賠償を請求することができない。
第四十六條 軌道ノ動力ニ他ヨリ電力ノ供給ヲ受ケムトスルトキハ供給契約書ノ謄本ヲ添ヘ供給者ト連署ノ上、鐵道大臣及內務大臣ノ許可ヲ受クヘシ
第46条 軌道の動力に他より電力の供給を受けようとする場合、供給契約書の謄本を添えて、供給者と連署の上、鉄道大臣及び内務大臣の許可を受けなければならない。
第四十七條 特許ノ消滅シタル場合ニ於テハ特許ヲ受ケタル者ハ特許狀及此ノ命令書ヲ大阪府知事ノ定メタル期日迄ニ返納スヘシ
第47条 特許が消滅した場合には、特許を受けた者は特許状及びこの命令書を大阪府知事が定めた期日までに返納しなければならない。
大正十一年七月七日【1922年7月7日】
鉄道大臣伯爵 大木 遠吉
内務大臣 水野 錬太郎