1927年(昭和2年)1月22日に阪堺電鉄株式会社(新阪堺電車)及び南海鉄道株式会社との間に、高野線跨線橋に関する協定契約書が締結されました。当該契約書は地平を走る鉄道線である南海高野線に対し、軌道線である新阪堺線が専用跨線橋でオーバークロスし、その両側の道路が踏切による平面交差する事に関し、記述されてます。こちらではその協定契約書について、掲載致します。

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協定契約書・条文1

大阪市西成區津守町四百三十八番地地先ニ於テ阪堺電鐵株式會社ノ軌道及其兩側道路ガ南海鐵道株式會社高野線路ト交叉スルニツキ南海鐵道株式會社社長渡邊千代三郞ヲ甲トシ阪堺電鐵株式會社社長井上虎治ヲ乙トシテ協定ヲナスコト左ノ如シ

大阪市西成区津守町438番地地先で、阪堺電鉄株式会社の軌道及びその両側道路が南海鉄道株式会社高野線と交差することについて、南海鉄道株式会社社長・渡辺千代三郎を甲とし、阪堺電鉄株式会社社長・井上虎治を乙として、次の通り協定を行う。


第一條 乙ノ軌道ハ甲ノ鐵道線路上ヲ專用跨線橋ニテ高架橫斷シ其左右ノ通路ハ甲ノ鐵道線ト平面交叉ヲナスモノトス

第1条(交差方法) 乙の軌道は甲の鉄道線の上を専用跨線橋で高架横断し、その左右の通路は甲の鉄道線と平面交差するものとする。

第二條 乙ノ軌道ガ甲ノ鐵道ヲ橫斷スベキ跨線橋ハ左ノ要件ヲ具備スベキモノトス
一、跨線橋ノ鐵桁最下端ハ甲ノ鐵道線路軌條面上最少十六呎タルベキコト。
二、跨線橋ハ甲ノ鐵道線路ニ對シ右五十五度四十九分ノ斜角トシ兩橋臺基礎面及其徑間共ニ甲ノ線路ニ直角ニ三十三呎以上タルベキコト

第2条(跨線橋の要件)乙の軌道が甲の鉄道を横断する跨線橋は次の要件を十分に備えているものとする。
1. 跨線橋の鉄桁の最下端は甲の線路レール面上から高さ16ft(4.88m)以上あること。
2. 跨線橋は甲の鉄道線路に対し、右55°49’の斜角とし、両橋台基礎面及びその径間ともに甲の線路に直角に33ft(10.06m)以上であること。

第三條 第一條ニヨル乙ノ軌道ト交叉箇所ニ於ケル甲ノ鐵道線路ハ添付圖ノ如ク現在線ノ東側ニ並行シテ複線ヲ敷設シ、左右兩側ニ土留石垣ヲ設ク其結果自然不用ニ歸スル西側敷地約六呎通リハ甲ヨリ乙ニ讓渡シ之ガ代償トシテ東側ニ於テ同坪數ノ敷地ヲ乙ヨリ甲ニ讓渡スルモノトス

第3条(軌道交差部分の土地交換)第1条による乙の軌道と交差箇所での甲の鉄道線は添付図のように、現在線の東側に並行して、複線を敷設し、左右両側に土留め石垣を設ける。その結果、不用となる西側敷地約6ft(1.83m)通りは甲より乙に譲渡し、これの代償として、東側に同坪数の敷地を乙より甲に譲渡するものとする。

第四條 第一條ニヨル乙ノ軌道ノ兩側道路トノ交叉箇所ニ於ケル甲ノ鐵道線路モ亦其西側ニ於テ不用ニ歸スベキ敷地六呎通リハ甲ヨリ乙ニ讓渡シ此レガ代償トシテ東側ニ於テ同坪數ノ敷地ヲ乙ヨリ甲ニ讓渡スルモノトス
但シ道路トノ交叉スル部分ニハ線路左右ノ土留石垣ヲ設置セサルヲ以テ左右法面上ノ道路盛土ハ乙ニ於テ之レヲ施工スルモノトス

第4条(両側道路交差部分の土地交換)第1条による乙の軌道の両側道路との交差箇所における甲の鉄道線も同様にその西側の不要となる敷地6ft(1.83m)通りは甲より乙に譲渡し、この代償として東側において、同坪数の敷地を乙より甲に譲渡するものとする。
但し、道路との交差する部分には線路左右の土留石垣を設置しないことにより、左右法面上の道路盛土は乙でこれを施工するものとする。

第五條 甲ノ鐵道線路西側ニ沿ヒ現存スル巾約壹呎六吋ノ通路ハ第一條ニ依リ乙ノ軌道及其左右兩側道路ノ交叉ノ爲メ遮斷セラルベキヲ以テ之レガ廢止ニツキテハ豫メ乙ニ於テ其關係者ト交涉シ解決ヲ爲スベキモノトス 

第5条(通路遮断と廃止)甲の鉄道線路西側に沿い、現存する幅約1ft 6in(0.46m)の通路は、第1条により乙の軌道及びその左右両側の道路との交差のため、遮断される。当該通路が遮断されることによる廃止については、あらかじめ乙がその関係者と交渉し、解決を行わなければならないものとする。

第六條 第一條ニ依ル乙ノ軌道ノ兩側道路新設ノ爲メニ要スル踏切道ノ設備同看守人ノ執務並ニ居住ニ必要ナル住宅及敷地ハ無償ニテ乙ヨリ甲ニ提供讓渡スルモノトス

第6条(踏切設備、看守人住居の無償提供)第1条による乙の軌道の両側道路新設のために要する踏切道の設備、同看守人の執務並びに居住に必要な住宅及び敷地は無償で乙より甲に提供、譲渡するものとする。

第七條 前條踏切道設備將來ノ保修並ニ看守人ニ要スル一切ノ費用ハ乙ニ於テ之ヲ負擔スルモノトス 

第7条(踏切設備補修、踏切係員の費用の負担)第6条の踏切道設備の将来の保修並びに踏切係員に要する全ての費用は乙がこれを負担するものとする。

第八條 甲ガ現在及將來ニ於テ必要トスル電氣架線ハ無償ニテ乙ノ鐵桁ニ取付ヲ爲ス事ヲ得ルモノトス
但其取付方法ニツキテハ必ス乙の承諾ヲ受クルモノトス

第8条(南海高野線電氣架線の無償取付)甲が現在及び将来において、必要とする電気架線は無償で乙の鉄桁に取付ができるものとする。
但し、その取付方法については必ず乙の承諾を受けるものとする。

第九條 本工事ニ伴ヒ甲ニ於テ乙ノ電車線ノ上部ニ高壓線並ニ饋電線ヲ架涉スベキ必要アルニ付之レニ要スル長尺鐵柱四本及其他架線工事費一切ハ乙ニ於テ負擔シ設計及工事ハ甲ニ於テ施工スルモノトス 

第9条(南海高野線高圧線・饋電線の工事)本工事に伴い、甲において乙の電車線の上部に高圧線並びに饋電線を架渉する必要があることについて、これに要する長尺鉄柱4本及びその他の架線工事費の全ては乙が負担し、設計及び工事は甲が施工するものとする。

第十條 乙ノ軌道敷設ノ爲メ甲ノ鐵道線路ノ既設設備ニ變更又ハ移動ヲ要スル部分ノ工事ハ甲ニ於テ施工シ其費用ハ乙ニ於テ負擔スルモノトス

第10条(阪堺軌道敷設に伴う高野線工事)乙の軌道敷設のため、甲の鉄道線の既設設備に変更又は移動を要する部分の工事は甲が施工し、その費用は乙が負担するものとする。

第十一條 第一條ニ依ル乙ノ軌道及兩側道路ノ設計ニ關シテハ豫メ甲ノ承諾ヲ得ベキモノニシテ其工事ニ着手セントスルトキハ十日以前ニ甲ニ通知シ甲ノ運輸營業ニ支障ヲ生セシメサル爲メ總テ甲ノ指揮ニ從フベキモノトス

第11条(横断工事開始の通知及び南海の指揮)第1条による乙の軌道及び両側道路の設計に関してはあらかじめ甲の承諾を得なければならない。その工事に着手しようとするときは10日以前に甲に通知し、甲の運輸営業に支障を生じさせないため、すべて甲の指揮に従うものとする。

第十二條 前條ノ工事中ハ甲ニ於テ線路看守人ヲ附スベキヲ以テ其費用ハ乙ニ於テ負擔スルモノトス 

第12条(横断工事中の線路看守人)第11条の工事中は甲が線路看守人を付けなければならず、その費用は乙が負担するものとする。

第十三條 第九條ノ工事從事員ハ乙ノ使用人又ハ個人ノ職工人夫タルヲ問ハス甲ノ工作物ニ危害ヲ與エサル樣注意ヲ加フベキハ勿論特ニ運輸列車ニ對シテハ充分ノ注意ヲ爲シ萬一之ガ爲メニ死傷其他ノ事故ヲ發生シタル場合ハ乙ニ於テ解決シ責ヲ甲ニ及ホサ丶゛ルモノトス

第13条(第9条に関する工事の注意と責任)第9条の工事従事員は乙の使用人又は個人の職工人夫であることを問わず、甲の工作物に危害を与えないよう当然注意しなければならない。また、特に運輸列車にたいしては、充分に注意し、万一、このために死傷事故やその他の事故が発生した場合、乙が解決し、責任を甲に及ばさないものとする。

第十四條 本契約書ニ記載ナキ事項ト雖モ第九條ノ工事ノ爲メ甲ノ運輸營業上支障ヲ生スベキ處アル事項ニ對シテハ其都度協定ヲ爲スモノトス

第14条(第9条に関する工事の未記載事項の対応)本契約書に記載がない事項といえども、第9条の工事のため、甲の運輸営業上に支障が生じる事項に対しては、その都度協定を行うものとする。


右契約書ハ之ヲ貳通作製シ甲乙各自壹通ヲ保持スルモノトス

右契約書はこれを2通作成し、甲乙各自1通を保持するものとする。

昭和貳年壹月貳拾貳日
(1927年(昭和2年)1月22日)

(乙)大阪市西区京町堀通四丁目二十二番地
阪堺電鐵株式會社
取締役社長 井上虎治 印

(甲)         南海鐵道株式會社
取締役社長 渡邊千代三郎 印

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参考文献

  1. 国立公文書館所蔵,『鉄道省文書』・軌道特許・阪堺電鉄1・大正11年~昭和2年より転載した。 ↩︎